二人きりの部屋に、重苦しい雰囲気が立ちこめる。

「『それは、どうかしら……』って、どういうこと?」

「簡単なことよ。これからヒナは、自ら負けを認めることになるのよ」

 ハッタリではない。雪路の目をちらと見るだけで、十分に読み取れる。

(くっ……圧倒的な実力差はもうわかっているはずなのに……)

 刀(と書いて木刀と読む)を構えなおし、改めて正対するも、まったく臆した様子もなくただこちらを見つめてくる。
 あまりに静かでかつ普段とギャップのある雰囲気にプレッシャーを受けているのか、いつしか手に汗がにじんできた。

「正直、この手だけは使いたくなかったわ……」

 ビクッ

 雪路はただ呟いただけ。だというのに、つい反応してしまうヒナギク。気圧されている、というのがはっきりとわかる。

 スッ……と雪路の右手が動く。

(来る!!)

 ヒナギクは身構える。だが、雪路はその場から動かなかった。

「えっ……?」

 戸惑いの声が漏れる。それもそのはず。

「どうして、竹刀を……?」

 そう。雪路は竹刀を握る手を緩め、あろうことか床に落としたのだ。その表情を伺おうと思ったが、俯いていてよく見えなかった。
 不審に思ったヒナギクが一歩踏み出す。

「お姉ちゃん?」

 しかし、返事は無い。

「お姉ちゃん、どうし……」

 さらに一歩踏み出したその時、急に雪路の腕が動く!!

「なっ……!!」
「ふふふ……ヒナ、ひっかかったわね」

 最強最大の作戦、死んだふり(?)。クマと出会った時にはやってはならないことでも、意外なところで役に立ったりするようです。

「くっ……こんなありふれた手に引っかかるなんて……」

 右手を相手の左手に、左手を相手の右手に掴まれて身動きが取れない。

「まだまだ。ヒナが本当に敗北するのはこれからよ……」

 そう言うと雪路は、右手に掴んだヒナギクの左手を、『ある場所』まで動かそうとする。
 ヒナギクも抵抗するが、いかんせん左手と右手。右利き同士では力負けしてしまう。

 そして雪路はそのままヒナギクの手を自分の胸に持っていき……

「……へ?」


──この部分は都合というかなんというかいろいろな理由で詳しく書けませんが、とりあえず効果音は『むにゅ』──


「なっ……なにしてんのよ!? 私はそっちの趣味は……」

 突然の姉の奇行に、
 まさかお姉ちゃんにそっちの趣味がいやだめ私はノーマルなのそれに私にはハヤテ君が
 とかいろいろ頭に浮かぶヒナギク。

 と、雪路さん、今度はヒナギクの手をヒナギク自身の胸元に。

「まさか……」

 この先の展開を想像して、思ったこと。

 まずい。

 それはなんというか、いろんなものに対しての敗北だ。


「や……」

「やめてーーーーーーーー!!!!」

 しかし、止めることはかなわずに。



──この部分も諸々の事情で詳しく描写しませんが、要するに効果音は──










 ぺたん。




  ・



  ・



  ・



  ・



 _| ̄|○←ヒナギク


「どうやら私の勝ちのようね……」

 雪路の勝利宣言。しかしヒナギクは上のポーズのまま動かない。

「それでは勝利の証として諭吉さんを三枚ほブフォア!!!!」

 あ、動いた。とばかりにいつのまにか得物を掴み、その怒気は視線で人が殺せそうなヒナギク。

「な……な……な……なんてことすんのよこのバカ姉ぇ!!!!」

「ゴフゥ!! ヒナ、大人しく負けを認めガハァ!!!」


 こうして妹にひとつトラウマを作ってしまった姉は、妹から金を奪って酒飲み放題どころか一ヶ月に三万円を献上することになってしまったとか。




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