「白凰学院五大伝統行事?」
「ああ。なんでも総額一億五千万円の賞金が懸かっていて、その一つに自由形マラソンというのがあるらしい。それと、そのマラソンは二人一組で出るものだって話だ」
「ふーん……」
「まあ、私はマラソンなんて出ないから関係無いけどな」
何やら考えこんでいる桂ヒナギクと、まったく興味なさそうにしている花菱美希。ちなみに美希はこのセリフがもとでヒナギクにパートナーとして抜擢されることになるのだが、今はそれを知る由も無く。
ヒナギクはというと、思考を終えたのか顔を上げて言います。
「自由形か……よくわからないけど、大会があるなら優勝しなきゃね」
と、決意をわかりやすく言葉にしてくれました。
さすがはヒナギク嬢。山があるから登るんだ、とのたまう人々と通じるものがあるすばらしい気質。
その言葉を聞いていた美希が「うへぇ……」と顔をしかめたのもまったく気にしません。
「問題はパートナーを誰にするかだけど……」
それなりに仲が良くて、頼んだら一緒に出てくれそうで、できれば運動神経も良い人。
で、最近の彼女の心情とこのSSの方向性も影響したのか、最初に浮かんだのは、
「…………いや別にそういうことじゃなくてただ単に条件に合う人を考えたら行きついただけで別にハヤテ君と一緒に走りたいとかそういうのじゃ」
「……ヒナ、どうした?」
「なんでもない!!」
思考を妨げた美希を一喝。哀れ美希。しかしそんなことは関係無くヒナギク嬢の暴走は続きます。
「いやちょっと待って。たしか総額一億五千万円って言ってたわよね? たしかハヤテ君がナギにしている借金も一億五千万円だから、全部勝てばハヤテ君の借金はチャラに」
「……ヒナ、大丈夫か?」
「美希は黙ってて!!」
嗚呼、美希いとあはれなり。でもそんなことはヒナギク殿にはまったく関係無し。さて、突然ですがここで彼女の思考を覗いてみましょう。
(以下、ヒナギクの脳内思考)
まったく美希ったらちょっと静かにしててよね。
えっと……とりあえず今後の行動としては、
五大行事優勝→賞金ゲット→ハヤテにあげる→ハヤテ大感謝
……なんだろう。何かが足りない気がする。これだけでも十分嬉しい展開なんだけど、もうちょっと何か……
・
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そ、そうだ!!
五大行事優勝→賞金ゲット→ハヤテにあげる→ハヤテ大感謝
じゃなくて、
五大行事優勝→賞金ゲット→ハヤテを『買い取る』
こ れ だ !
(脳内思考終了)
と、こうして、ナギとかが聞いたら「な、なんだってー!!」な考えがまとまったらしいです。
突飛な考えではありますが、そこはご愛嬌。例え成功する可能性はほとんど無いとわかっていても、賭けてみたがるのが人のサガ。宝くじだって「もしかしたら」の思いで皆買ってるわけです。
だって成功したら好きな人と一つ屋根の下、しかも向こうはこちらに多大な恩義あり、もうえへへであははな展開が待ってるってもんです。
『く……な、なんてうらやま……いや! なんて敗北感!!』byN沢さん
それ以前にナギがハヤテを売るのかとかなんだかんだと障害もありそうですが、彼女には見えていません。ただ突っ走るのみ。……理由? そこに彼がいるからさ。
「よし、そうと決まったら早速走り込みを……って美希、どうしたの?」
「ふーんだ、ヒナなどもう知らん」
「?」
その後走り込みに没頭しすぎてハヤテを誘うことを忘れていたヒナギクが、とりあえずそこにいた美希を連れて大会に臨むのはもう少し後のお話。