「ら〜か〜ら〜、もーひょっほへファヤヘふんほヒフほ……」
「…………」

 さっきまでのあのだるさはどこへいったのか、ヒナギクは語り尽くしていました。もう雪路さんが呆れるくらいに語り尽くしていました。

 しかし、どうしてこんなことになってしまったのでしょう。
 実はこうなってしまう前に、ヒナギクは雪路さんに無理矢理お酒を一杯飲まされてしまいました。その時から、既に異変は始まっていたのかもしれません。
 ぐいっと一杯飲まされると、ヒナギクは少しの間ボーっとしていました。しかししばらくすると急に元気になり、雪路さんがすすめるわけではないのに勝手に飲み始めました。
 そしていきなり「語るわよ〜!」とか言いだし、今に至っていました。

注─お酒は二十歳になってから。まだ未成年の方は飲んではいけません。
  このマンガでお酒を飲める女性は何人かいますが、ヒナギクはもちろんまだ飲めません。
  ちなみにお酒を飲める女性とは、雪路さん、詩織さん、サキさん、マリうわなにをするやめくぁwせdrftgyふじこ

「ひょっほほへ〜ひゃんひ〜へふ〜?」
「え……あ、はい」

 逆に雪路さんはすっかり縮こまっていました。妹がこんなに酒癖が悪いとは思っていなかったのです。
 何を言われたのかもよくわからなかったので、とりあえず勢いで返事をしました。幸いにも、その返事はヒナギクを怒らせることはなかったようです。
 雪路さんの返事に満足すると、さらに話を続けようとして、

 バタッ

「ぐ〜〜〜」
「…………」

 急に倒れて眠ってしまいました。
 ヒナギクが完全に寝ているのを確認すると、雪路さんは肩をなでおろしました。既に時間は夜中の、というか朝の四時。もう少しで完全に徹夜してしまうところでした。

 一方的にしゃべりまくる者がいなくなって部屋は静寂に包まれ……るかと思われましたが、この部屋には『ジー』という変な音が流れていました。
 うるさい人がいたときならまだしも、今は当然聞こえるはずのその音。音源も明らかにある一点なのですが、雪路さんは無視して、辺りを見回しました。

「…………(泣)」

 数時間前には見渡す限り酒、酒、酒の山だったその部屋は、空瓶、空瓶、空瓶の山になっていました。もちろん飲んだのは大部分が今そこで眠っている彼女です。

 一通り部屋を見回して失ったものを確認すると、再び妹に視線を戻します。
 妹は自分の悲しみなどどこ吹く風、ぐっすり眠っていました。
 しばらくその姿を見つめ、ふっと笑うと、雪路さんは毛布をかけてあげました。

 雪路さんは思いました。
 生徒会長もやって、剣道部も両立して、そして成績も優秀に保っているヒナギク。
 才能、と言える部分もあるにしても、きっと彼女の努力は並大抵のものではないはずです。
 それに今、彼女には恋という新たな重みものしかかっているのです。
 肉体的にも、精神的にも、すごく疲れていて当然でした。

 もう少し肩の力を抜いてもいいんじゃないかな、と雪路さんは思いました。
 その時雪路さんは、妹のためならなんでもするお姉ちゃんの顔をしていました。



   と、そこまで思ったところで、先程から鳴っている『ジー』という音が雪路さんの耳を捉えました。
 そういえばスイッチを切っていなかったか、と思い当たると、立ちあがり、それのもとまで歩きます。
 そして、それ、世間一般的にはビデオカメラと呼ばれる物のスイッチを切りました。
 その時雪路さんは、お酒のためならなんでもするアル中の顔をしていました。










『あの人との疑惑の真相は!? 生徒会長が赤裸々に語る!!』

 翌日、二日酔いによる頭痛に悩まされながらも学校に行ったヒナギクが見たのは、そんな文章が書かれた垂れ幕の下でビデオテープを熱心に売りさばく姉の姿でした。

「はいはい生徒会長の本音なんてここでしか聞けないよ!! 一本五万円!! 買った買ったー!!」

 一本五万円というすさまじい値段にもかかわらず、それは驚異的な売り上げを見せているようでした。

 ヒナギクは昨日のことをあまり覚えていませんでした。しかし、なんだかすごい醜態をさらしていたのだけはなんとなく想像できていました。
 そして直感で、そのビデオがいつ撮られた物なのか理解しました。

 ヒナギクは姉に向かって突き進みました。本来ならそこには順番を待っている人たちがいたのですが、彼らは、にっこりと爽やかな笑顔で笑う生徒会長に道を作ってあげました。
 道を作ってあげたというよりも、何か恐ろしいものでも見たかのように悲鳴を上げて一目散に逃げていったり、ぺたんとその場に座り込んでるように見えるのは気のせいでしょう。
 群集をかき分けてくるその姿は、当然雪路さんの目にも入ります。雪路さんはもうけた金を扇子のようにしてあおぎながら、ヒナギクに言いました。

「あ、ヒナ、いやあこんなにもうかっちゃって、これでお酒がいっぱい……」
「そう、よかったわね、お姉ちゃん」

 ニコッ、とヒナギクは笑いました。


 この後の展開は、フリーダムの名の下にご自由にご想像ください。











 ちなみにそのテープ、結局ヒナギクが何を言っていたかわかる人はいませんでしたが、とりあえず普段は見られないヒナギクが映っているというだけで、男女問わず大人気だったそうです。
 しかしせっかく手に入れたはずのそれは、生徒会による刀狩ならぬビデオ狩りによってすべて没収され、完全処分されたそうです。





 さらにおまけとして、その後、こんな会話があったとか。

「ねえ、ハヤテ君はあのビデオ、買ったりしたの?」
「え? あのビデオって……もしかして、あれですか?」
「そう、あれ」

 言いながらずいっと顔を近づけます。ハヤテはビクッと後ろに下がります。
 さて、ハヤテとしては、一般的男子としては、ここで「買った」と答えるとあまりよろしくない結果が待っていると想像するわけで。
 しかもヒナギクはいやに真剣な顔をして聞いてきます。この時点で、彼の答えは決定されました。

「い、いや、もちろん買ってませんよ僕は!! 本当です!!」

 そう、本当です。ちょっと興味を持ってたらお嬢様に怒られたので、実際に買いませんでした。
 そしてその答えに対して、ヒナギクは、

「まあ、やっぱりハヤテ君は普通の男子と違うのね!!」

 とは、言いませんでした。
 かわりに、ちょっと不機嫌になって、何か言いたそうにしつつも、

「ふーん……」

 とだけ残して立ち去ってしまいました。
 まあ、それがツンデレクオリティ。
 買ったと答えればデレな展開があったのですが、どうやらハヤテはツンがお好みのようです。

 ハヤテはわけがわからず、ただ呆気に取られて去っていくヒナギクを見つめていました。





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