俺の名は菅柳平。アソの親友にして、恋人はラーメンだ……今はそれでいいんだ。
 そんな俺だが、今迷っていることがある。それは、目の前のノートについて。

 さっきサラちゃんがやってきて、アソのやつを連れ出してってしまった。だが、サラちゃんがあいつを連れて教室を出るとき、このノートを落としていったのだ。しかも、かなり分厚い。あえて言うなら広辞苑レベルといったところか。

 しかし女の子がよくこんなの持って普通に歩けるな……。
 もしかして常に持ち歩いてるのか?
 中身、ちょっと見たいかも……うん、見てみよう。(この間二秒)

 まあ、見るといっても最初の一ページだけ。どんなノートなのか気になるだけだ。
 そんなふうにして、好奇心に負けた俺がノートを開いてみると……。


 A月B日
 今日は、日本に来て初めての友達ができた。
 ヤクモって言うんだって。これから仲良くなれるといいな♪


 ……もしかして、日記なのか?やっぱり見るのやめとくか……。
 とは思ったが、次のページだけ……と思いつつ先を見てしまった。


 C月D日
 茉莉飯店ってところでバイトさせてもらえるようになった。
 そこにいる麻生って2年の先輩、結構カッコイイかも。
 本気で狙ったりしてみようかな〜


 ……前言撤回。俺はアソの親友として、あいつに近づく子の手の内を知っておく必要があるじゃないか。(意味不明)
 っていうか何故みんなあいつなんだ。女の子はどんな考えか知りたい。(本音)
 少しは躊躇したが、それでも俺は力強く次のページを開いた。



 E月F日
 八雲は花井先輩が苦手みたい。
 どっちかっていうと内気なほうだから、あの真っ直ぐな感じに戸惑っちゃうんだって。
 まったく、八雲は全然意識してないんだから諦めたらいいのに。


 G月H日
 今日は八雲が茶道部に入部した。
 花井先輩も案の定入部希望したけど、高野先輩が撃退してくれた。
 私にもあんな力があれば、八雲に近づく奴なんてボコボコにしてあげるのに。
 酔いざましのハーブティーにいろいろと入れてあげようかと思ったけど、高野先輩が
「女は正々堂々拳で勝負よ」って言うから今回は止めておいた。


 ……なんかだんだん黒くなってる気がするが、一応八雲ちゃんを気遣ってる内容……のはずだ。
 次のページは……おっと、アソがでてきたぞ。


 I月J日
 今日は麻生先輩の意外な一面を見た。
 大体、実家がラーメン屋なんて初耳なのに、先輩は知ってて当然みたいに言ってた。
 案外、天然なのかもしれない。
 まあ、それはそれでからかいがいがあっていい。
 今日は店長がいなくていつもより忙しかったけど、仕事が終わった後でラーメンをつくってあげたら、ちょっと照れながら食べてくれて、なんだか可愛かった。
 ……いけない。ちょっと、欲しいかも。


 K月L日
 高野先輩に麻生先輩のことを調べてもらった。
 浮いた噂一つ無く、根っからの真面目。
 おそらく一度好きになったら操を立てるタイプ、というのは高野先輩の予想。
 うん、決めた。
 この人、いただきます。
 これから、ガッチリ狙っていきます。


 M月N日
 どうやら私の目の届かぬところで妙なフラグを立てている輩がいるらしい。
 2−Cの周防美琴と、同じクラスの俵屋さつき。
 バスケ仲間という、私には手が出せない領域なので、はっきり言って要注意だ。
 あまりうかうかしてられない。
 もうこうなったら既成事実でもなんでもつくってしまおうか。


 ……なんかもうどうでもよくなってきたな。
 最後に、せっかくだから昨日何を書いたのか見て、もうやめにしよう……。





 ……だが、俺は後にこの決断を大きく後悔することになったんだ。
 あそこで止めておけば、ただちょっと黒いサラちゃんの日記ですんだのに。
 何も知らなくてすんだのに。
 なんで見てしまったんだろう。(後に菅、語る)





 ページをめくり、昨日の部分をみつけたが、その前にちょっと気になることがあった。
 それは、昨日の部分の右隣のページ、つまり今日のはずの部分なんだが……なんで今日の分がもう書いてあるんだ? しかも、この内容は……?


 O月P日
 さて、麻生先輩にくっついてるお邪魔虫ナンバーワンの菅先輩。
 彼をどうしたらいいだろうか……と考えていたんだけど、予想外の事態が起こった。
 なんと、この日記を菅先輩に見られてしまったのだ。
 これはある意味チャンス。
 このことを麻生先輩に泣きついたら、菅先輩に電話をかけてものすごく怒って、今までのようにつるんだりはしないと言ってくれた。
 先輩は友情より私を選んでくれたのだ。
 この萌えるシチュエーションに、初めて菅先輩に感謝しよう。
 尊い犠牲、ありがとうございました。


 これはいったい……?
 わけがわからないでいると、いきなり俺の携帯が鳴り出した。
 画面を見ると、アソからの着信だ。

「ああ、アソ?どうしたんだ?」
「おい菅。お前、サラの日記を勝手に見たんだって?」
「あ、いや、それは……」
「見たのか?」

 あ、やばい。経験上、今のアソはかなり怒ってる。

「い、いや、わざとじゃなくてな……」
「隅々まで見たそうじゃないか。わざとも何も無いだろ?」
「……って、何で知ってんだよ!?」
「サラがそう言ってたぞ」

 いや、何でサラちゃん知ってんだよ!?

「とにかく、見たのは本当なんだな。人の日記を勝手に見るなんて、見そこなったぞ。もうお前とつるむこともないかもな」

 いや、確かに悪かったけど、何か話の展開が急過ぎません!?
 ……と、そんな俺の心の中のツッコミも聞くことなく、アソは電話を切ってしまった。
 なんだか背筋に寒気を感じる。
 もしかして、この日記は……!!

 恐ろしい予想が頭に浮かび、その先のページも読んでみた。


 12月24日
 尊い犠牲のおかげで、私達はより身近な存在になれた。
 残念ながら、一応仲直りして友達やってるみたいだけど、やっぱりあの効果は大きい。
 あれからプライベートでも何度か会い、もうほとんど付き合っているようなものだ。
 そして今日も、麻生先輩から誘ってくれて二人きりで過ごし、最後に告白された。
 ちょっと焦らしてみるけど、最終的にはもちろんOKした。
 こうなれたきっかけは、やっぱりあの尊い犠牲。
 感謝、感謝。


 2006年4月8日
 今日は私の十七回目の誕生日。もちろん先輩と二人っきり。
 プレゼントが欲しいと言ったら……なんと、キスしてくれた!!
 いつもみたいにほっぺたじゃなく、ちゃんと口に!!
 先輩からしてくれた、っていうのが大きいと思う。
 もっといろんなことをしたいと言ったけど、さすがに渋られた。
 まあ、こんなものかもしれないけど、ちょっと残念。


 2010年2月14日
 いつものように手作りのチョコを贈った。
 すると、お返しとばかりに、広義さんがついにプロポーズしてくれた。
 私の念願がかなったのだ。
 結婚式は4月8日、私の誕生日を選んでくれた。
 好きになってからそろそろ5年半。
 本当に長かったと思う。


 その先も途切れることなくずっと書いてある。
 やっぱりこの日記は……!!

 と、ぱらぱらとページをめくっていた俺の目に偶然留まった一ページ。
 そこには、世にも恐ろしいことが書いてあった。


 Q年R月S日
 ふと、私達がくっつくための犠牲になってくれた、あの人……かん? くだ? のことを思い出した。
 広義によると、もう40歳近いのに、いまだに彼女いない暦=年齢で、自分の恋人は一生ラーメンだとか言ってるらしい。
 哀れな人もいるものだ。

「ウ……ウソだあああああああああああああ!!!!!!」





「ダメですよ、菅先輩。もうその内容は決まってるんですから……」

「ん?何か言ったか?」

「いえ、何でもないですよ♪」





   おまけ。

 12月24日
 今日は、バスケ部で彼女がいない男たちだけが集まる飲み会。
 もちろん俺も参加した。
 でも、あいつはいない。
 なあ、アソ、お前は今頃サラちゃんと二人きりでデートしてるのか?
 今日、告白するのか?
 答えてくれよ!! アソォォォォ!!!!


 2006年4月9日
 登校途中にアソとサラちゃんを見かけたので、声をかけようとしたら……。
 二人は近づいて、お互いの顔を見つめて、キ……うあああああああああ!!!!!!
 認めねえぞぉぉぉぉぉ!!!!!


 2010年3月9日
 今日、麻生から手紙が来た。
 わざわざ何かと思って開けてみると、そこにはサラちゃんとアソの写真。
 その下に短く、
『私達、結婚します』
 …………。


 T年U月V日
 もしかして俺はずっと独り身なのか?
 今まであの日記の通りになっているぞ?
 少なくとも40までは、ラーメンが恋人なのか?
 今日、サラちゃんに電話をかけて、あの日記を書きかえるように頼んでみたが、その返事は、
 『アハハ〜、無理ですね〜♪……まあ60歳ぐらいで運命の出会いを果たすはずなので、気長に待っててくださ〜い♪』
 あっ、そうなの!?
 あと20年で俺にも運命の出会いが……。


 ……って待てるかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!




 おしまい。


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