「ふふ……ははは! 完成よ!」

 そもそも始まりは、とある宴会にて。
 魔理沙に、「アリスの人形ってぜんぶ似たような顔のばっかりだよな。もしかしてアレしか作れないのか?」と笑われたのである。

「ふふ……ふふふ……」

 なにおぅ、と思った。こいつをびっくりさせようと思った。
 そんな感じについカッとなって、超精密な魔理沙の等身大人形を作ってやったというわけだ。
 我ながら完璧すぎる出来だ。顔を似せるのみならず、体形までも完全に再現。白黒の衣装も作って着せてやったので、外見はもう人形であることがわからないどころか、どっからどう見ても霧雨魔理沙そのものである。どうだまいったか。

「ふふふ……」

 ……で。

「どうしようかしらこれ……」

 作った。
 作ったのだ。
 完璧なのだ。
 どう見ても魔理沙なのだ。


 ──で、これどうしましょ?


 元はといえば、これを魔理沙に見せてやって、どうだ見たかリアル志向でもいけるんだぞって自慢してやるつもりだったんだけど。
 なんというか、いざ作ってみたら、完璧過ぎた。自分で言うのもなんだけど、変態的なまでによくできている。
 冷静になってみると、こいつを作りあげるまでには人形を使って魔理沙をじっとりと……それこそあまり口には出したくないくらいに観察あるいは盗撮したり(やってる時は気にならなかった。一流の人形師は仕事に妥協をしない)。
 顔や身体の造形やら……端から見たら、素っ裸の魔理沙を作りあげていくのにミリ単位でこだわりまくっていたわけで(やってる時は気にならなかった。一流の人形師は仕事に妥協をしない)。

 人形師からしたら当たり前のことだ。しかし私は常識も備えた都会派魔法使いである。常識に照らし合わせて考えると、この人形を作る過程はなかなか……そう、なかなか口には出しにくい。特に、モデルとなった当人には。

「残念だけど廃棄かな……少なくとも魔理沙には見せられないし」

 なんとなく、ためつすがめつ。細っこい身体。健康的にぺったんこな胸。静かにしてるとなかなかきれいな顔。
 うむ、と出来ばえに頷いてふと横の壁を見ると、一面、魔理沙魔理沙魔理沙の写真に埋め尽くされている。普段の白黒服から、寝巻きのものから、もちろん裸のものまで。カメラを搭載した人形で盗撮したものだ。人形作りのために欠かせない資料であった。

「ゴシュジンサマ、オハヨウゴザイマス」

 思考の片隅で人形を操作。お辞儀をさせつつ、声とか出させてみる。これも魔理沙の声を魔法で再現したものだ。

「ゴシュジンサマ、ヤメテー」

 スカートとかめくってみる。大きさに限らず、人形と見るとついついスカートの中身を確認したくなるのは、人類のサガなのだろう。自作の人形に対しても例外ではない……作っているときは完全にスイッチが入ってしまっているので、あまり気にならないけど。こうして完成したものが目の前にあると、ついつい手を出したくなる。



「おーいアリスいるかーいるよなー上がるぜー…………え?」

 ……ところで。
 霧雨魔理沙が「おーい」と我が家の入り口のドアを開けてから、この作業場のドアを開けて、わたくしアリス・マーガトロイドが霧雨魔理沙人形のスカートの中を覗いている様を目の当たりにして「……え?」となるまでは、およそ二秒ほどだった。

「ア……アリス?」

 やばい。
 恐ろしくリアルな魔理沙人形。そのスカートの中に頭を突っ込んでいる私。そして壁一面には、おはようからおやすみまでをしっかり見守った魔理沙の写真群。

 やばい。
 何がやばいのかわからないくらいやばい。

 とりあえずさしあたって、人形のスカートから急いで首を引っこ抜いた。「ままま、魔理沙これは違うの」何が違うのかよくわからないけどとりあえず違うのだ。冷や汗がすごい。背中がぐっしょりだ。おちつけ冷静になれアリス・マーガトロイド。どうやら魔理沙も軽く混乱しているぞ。ほら、まずは……まずは、えっと……

「な、なにこれ! なんで魔理沙の写真がこんなにあるの!?」

 とりあえず写真についてバックレてみた。
 バックレた後のことは知らない。大切なのは今なのだ。

「ううっ……記憶が曖昧……私としたことが、妙な術をかけられていたみたいね……」

 勢いに任せていい感じにふらついてみた。いろいろと私に責任能力が無いことを示さなくてはならない……焦る頭でそれだけ考えていると、なんとか道が組みあがっていく。私は妙な術をかけられていただけなのであって、こんな変態じみた写真など何の関係もないのだ。何の関係もないのだ!

 ふらつきついでに魔理沙の元まで滑っていく。わけがわからないといった感じの魔理沙だけど、近づいてきた私の身体をひとまず抱きとめた。そう、今が最大のチャンス。魔理沙もわけがわかってないうちに、いろいろと決着をつけてしまうのだ。私は魔理沙人形を指差した。

「さてはあなた、魔理沙の偽者ね! 私に変な術をかけて……この写真もあなたがやったんでしょ!?」
「クッ、バレタカ!」

 一言の自白を残して、その場から一目散に逃走する魔理沙人形。窓に突っ込んでダイナミックにガラスを割っていってしまうが、まあこの際仕方ない。というか自白させたのも逃走させたのももちろん私。壮大な自演である。

「なんだあいつ……私の偽者……?」
「そうみたいね……くっ、私としたことがやられたわ……」
「くそ、なんだかよくわからないが追うぞアリス!」
「待って!!」

 箒を持って駆け出そうとする魔理沙の腕を、がっしと掴む。
 ここで追いかけられるわけにはいかない。魔理沙人形の速度までは本人をコピーできていない……つまり追いかけられたらまず間違いなく追いつかれる。
 追いつかれたら、怪しい奴めとりあえずマスタースパークとか言って、破壊されてしまうかもしれない。それは困る。だって壊されたら、あれが人形……つまり私の作品であることがばれてしまうではないか。

「アレは追いかけちゃだめ! アレは……そう、ドッペルゲンガーに違いないわ!」
「ドッペルゲンガー!?」
「そう、ドッペルゲンガー。出会ったら死ぬという……」
「え!? 私さっき出会っちゃったぜ!?」
「あー、んーと、触れられたら死ぬという……」
「ずいぶんアバウトだな!」

 適当に言い繕いながら、魔理沙人形を家の近くの森の中に隠れさせる。これでひとまずなんとかなったはずだ。
 しかし自爆装置を備え付けていれば、犯人は自白後に謎の自殺を遂げたってことで、この時点ですべてを闇に葬れたというのに……外見優先で作るからこんなことになるんだ。次からはちゃんとすべての人形に自爆装置を付けておこう。

 なんて思ってるうちに、魔理沙の奴が「ようは触れられなければいいんだろ? 楽勝だ!」とか言い始めて箒に跨り、飛び出そうとしている。そうはいかない。

「待ちなさい魔理沙、ろくな準備も無しに追わないほうがいいわ。ドッペルゲンガーは本人と同じ外見だけでなく、同じ力を持っている」
「そうなのか?」

 ……そうなのかなあ?
 いやまあたぶんそうなんじゃないかな。落ち着け私。

「でもアリスがいれば大丈夫じゃないか?」
「私じゃどっちが本物の魔理沙なのかわからない。今はともかく、何かの拍子で見分けがつかなくなったりしたら、危険よ」
「合言葉とか決めれば」
「ドッペルゲンガーは本人の精神をも読み取るらしいわ」
「そうなのか?」

 ……そうなのかなあ?
 うん、よく知らないけどきっとそうに違いない。信じるのって大事。

「まあそれにどっちにしろ、もう逃げたでしょう」

 ともかく。
 これでひとまず、この場を脱した。
 さてどうするか……とりあえず最終的には、魔理沙から離れて私単独であの人形を始末しなくちゃいけないけど。今の状況で私が魔理沙から離れるのは少し不自然だ。とすると……。

「霊夢のところに行きましょう。私と霊夢、片方が常に魔理沙に付いていれば、合言葉なんて無くても本物の確認ができる。そしてもう片方がドッペルゲンガーを倒しにいけばいい」
「おお、なるほど。すまんな。協力してくれるのか」
「まあ、このくらいはね」

 我ながら完璧な作戦だ。魔理沙を霊夢に押し付け、私が人形を狩りに行き、証拠隠滅というわけである。











 里の店に好きな茶葉が入ってなかったらしい。霊夢は少し機嫌が悪そうだったが、いちおう魔理沙の命に関わることだと前置いたからか、黙って話を聞いてくれた。
 話といっても、私がなんだかよくわからない術をかけられていたとか、なんだかよくわからないけど魔理沙の写真が大量にあったとか、なかなか要領を得ないものだったけど。そんなのは些細なことだ。とにかく解決さえしてしまえば、すべての問題は忘れ去られる運命にある。それももうすぐ……の、はずだったんだけど。

 片方が魔理沙に付いて片方がドッペルゲンガーを倒しにいくという作戦、その説明を私が終え、霧雨魔理沙と一緒にいることを霊夢に頼もうとした時のことであった。

「ドッペルゲンガーねぇ……まためんどくさそうね」
「そうなのよ。それでね霊夢、ちょっと魔理沙と一緒に……」
「まあいいか、今度ご飯でも奢ってよね魔理沙。それじゃアリスは魔理沙とここにいてよ。私がひとっ走り片付けてくるから」
「えっ」

 予想外の事態だった。
 まさかあのぐうたら巫女霊夢が、自分からドッペルゲンガーを倒しに行く側に志願するなんて。ここで魔理沙とゆったりお茶してくれていればいいのに。

「や、やけに気前いいのね。いつもならめんどくさがってここでぼーっとしてそうなのに」
「いや、魔理沙の姿をした奴を思う存分痛めつけられるんでしょ? 鬱憤晴らしにちょうどいい」
「ひどいぜ。でもまあ、今回に限ってはそれでいいよ」

 あ、あれぇ……?
 いやこのままじゃまずい。ここで霊夢を行かせたら、きっちりかっちりドッペルゲンガーをボコボコにして、アレが人形であることに気づいてしまうだろう。

「それじゃ行ってくるわ」
「ちょ、ちょっと待って!」
「なに?」
「い、いや、えーっと……」
「なによ。やるんならちゃっちゃと片付けてきちゃいたいんだけど」

 まずい。
 どうしよう。
 感で動く霊夢が感に従っているんだから、なにかちゃんとした理由が無くては止まってくれないだろう。
 論理的な理由が要る。
 ここで霊夢でなく、私がドッペルゲンガーを倒しにいく論理的な理由。それは……!!

「私も魔理沙(のドッペルゲンガー)を痛めつけたいの!!」

 ……うん。
 論理的だ。非常に論理的な理由が土壇場で飛び出てきた。さすが私だ。
 ほら、あまりに論理的過ぎて魔理沙が口をぽかーんと開けているじゃないか。でもどちらかというと無反応で冷静に見つめてくる霊夢の方が精神的に辛いかな?

「だから代わって! お願い!!」
「そこまで言うんなら別にいいけど」
「ありがとう!」

 なんだかもうどうにでもなれだけど、ここまできたら逆に覚悟するしかない。
 アレを作ったのが私とばれないようにする、それだけが今の私のすべて。過程や方法なぞどうでも良いのよ……!
 薄ら笑いを浮かべて神社を飛び立とうとする私だったけれど、その肩を霊夢に掴まれる。

「でもドッペルゲンガーの居場所わかるの?」
「あっ……えっと」
「私なら勘でなんとなくわかるんだけど、アリスはそうでもないでしょ? ここはやっぱり私が」

 そりゃわかる。わかるのだ。私が作った人形だから。

「ああ、うああ、」

 でももちろん、そんなこと言えない──

「……アリス?」
「う、ううん、大丈夫よ!」
「え?」
「なんだかすごく勘が働くの! ああ、わかるわ! こっちの方角! こっちに来いって言ってる! 霊夢、こっちであってるでしょ!?」
「え、ああ、うん、だいたいそっちだけど」
「よし! 後は私に任せて!」

 勢いでねじ伏せて、反論を許さず飛び立つ。
 実に雑な対応である。今までとは違って、知性の欠片もない。
 だが正直に言うと、私はもう、なんだか疲れていたのだ……。











 我が家のほど近くにて、私は魔理沙人形と対面した。対面といっても、森の中、隠していた茂みから引っ張り出したのだけど。
 少し汚れてしまっているけれど、やはり近くで見ても魔理沙としか思えない。見れば見るほど見事な出来である。しかし私は私のため、この人形を一片の痕跡も残さず破壊しなくてはならない。

「魔理沙の姿をしてるし、ちょっと罪悪感あるけど、ごめんね……」

 私は魔力を弾丸の形に練り上げ、魔理沙人形に撃ち込もうとした。

「ママ……」

 ──が。

「え?」

 その瞬間、なにやら妙な声が聞こえた。妙な声というか、魔理沙の声である。
 まさか追ってきたのかと辺りを見回し、魔力を探知するけども、周囲には誰もいない。ここには、私と魔理沙人形だけ。

「ママー」

 また聞こえた。それも、さっきより明確に。声は明らかに、魔理沙人形から発せられていた。
 しかし、いま私はこの人形に喋らせていない。
 こんなふうに喋るよう、プログラムした覚えもない。ママ、だなんて。

 ──あれ?

 かすかな疑念が、形になる。まさか。

「この子もしかして自立してる?」

 にっこりと。
 人形が、私の操作なしに、笑う。

「え、えええ? うそ? ほんと? え、なんで? どんな要素が働いたのかしら……普段はいつも同じ顔をイメージしてたのがいけなかったのかな? まだよくわからないけど、この子を連れ帰ってちゃんと研究すれば……ふふ、ふふふ……」

 うん、よし。
 こうなっては仕方ないね、うん。
 この子の破壊は中止。とりあえず我が家にかくまってやろう。魔理沙たちには破壊したって言って……。

「おーい、アリスー!」

 と。聞こえた声に、人形を抱き上げようとした私の腕と、思考が停止。
 あるいはその声が人形のものであったなら。特段問題はないし、ご主人様を呼び捨てにしたことも水に流していたんだけど。
 私は反射的に人形から距離を取り、やって来た二人をこの目で確認して、なんとか溜息をこらえた。

「アリス、大丈夫か?」
「魔理沙、霊夢……なんで来たの……?」
「アリスの様子がおかしかったから。なんか魔理沙の話だと、そのドッペルゲンガー、さっきアリスに変な術をかけてたらしいじゃない。心配だから見に来たのよ」

 その優しさが今は痛い……!
 私の心の叫びを意にも介さず、二人は人形に向き直る。

「だがチャンスだな。ここで一気にやっつけてやろう」
「そうね」
「え? え?」

 やっつけるって、なんでしょうか。
 その八卦炉からマスタースパークで私の自立人形ちゃんが爆発オチですか?

「いくぞ! マスター……」
「ちょっと待ったあああああああああああああ!!!!」

 子を守る親の気持ちで、魔理沙と魔理沙人形の間に割り込む。「いぃ!?」と魔理沙はすんでのところでマスタースパークの発射をこらえた。危ないところだった。本当に危ないところだった。
 勢い任せで走ってきた今日だ、最後まで勢い任せなのもまた一興……なんて思う私の頭の中では脳内麻薬がドバドバマッハで駆け巡ってる気がする。我ながらテンションがまずいけどブレーキは踏まない……そう、踏まないのだ!

「な、なんだ!?」
「倒す必要はないわ。ドッペルゲンガーとはいえ命あるもの。倒すなんて間違ってる。この子は……そう、この子は私が責任を持って飼う!!」
「アリス、なに言ってるの?」
「そうだぜアリス、いきなり……まさか奴の術に……?」
「私は正気よ!!」

 ダンッッッッ!! と、ありったけの力で地面に足を打ちつけてやる。「ひぃ!?」と本気でビビッてる魔理沙とは、なかなか珍しいものを見れたものだ。霊夢が珍しいものを見る目でこちらを見ているのは、努めて無視である。

「で、でも! さすがに私も、触られたら死んじゃうって奴がお前の家にいるのは……」
「大丈夫! それはあの子が魔理沙のドッペルゲンガーだからであって……別の存在だとちゃんと定義してあげればそれでもう問題ないわ!」
「そうなのか!?」
「そうなのよ!! そう、彼女は……まだ幼い、魔理沙でないまりさ。これから私が教育して、ちゃんと女の子口調になるまりさ。あなたは魔理沙じゃない! ──魔梨沙と名づけます」
「やめてえええええええええええええええ!!??」
「やめない! この子は魔梨沙! 私が飼うの! 飼うったら飼うの!!」

 なぜか恐慌状態に陥った魔理沙と、私との間に。
 今まで傍観を決め込んでいた霊夢が入ってきて、ぽりぽり頭をかきながら、魔理沙人形──いや、魔梨沙をちらりと見た。そしてその眠たげな目を、今度は私に向ける。

「アリス、ちゃんと世話できるの?」
「できるわ!」
「魔理沙に危険は無い?」
「無いわ! アリス・マーガトロイドの名にかけて!」
「魔梨沙に危険は無い?」
「え……なにその、私がこの子をいじめるみたいな」
「魔理沙を痛めつけたくてたまらないみたいだし……」
「だ……だいじょうぶ、ですよ?」
「……ふーん……まあ、じゃあ、いいんじゃないの。なんかああいう魔理沙……魔梨沙もかわいいし」
「霊夢ぅ!?」
「はい決まり! ほら帰るわよ魔梨沙! あの怖い魔理沙にやられちゃう前に!」
「まりさ、かえるー」

 そんなこんなでうやむやのうちに連れ帰ってしまったので、まあ私の勝利だったはずだ。たぶん。











 ……その後。
 正直なところ、魔梨沙を分解して(自立人形を普通の人形みたいに分解して大丈夫なのかどうかよくわからないから、その調査も兼ねるつもりだった)、数週間がかりでいろいろじっくり調べてみたいところだったんだけど。
 魔理沙や霊夢がちょこちょこ様子を見に来るせいでそれも難しい。結論から言うと、他人に魔梨沙の存在を認識されてしまったことからして痛手としか言いようが無かった。

 というわけで。
 まあうまくいくかはわからないけど、誰にも存在を知られない自立人形ができやしないかということで。とりあえずで霊夢の人形を作ってみたら、なんとこいつもしっかり自立してしまったのだ。
 いやはや、どういう原理なのか。明確に対象をイメージ……人格をイメージすることと関係あるんだろうか。まあそれも、分解してみればわかるかもしれない。

 そう思って霊夢人形──仮に、靈夢と名づけている──の分解を始めようとした矢先だった。
 霊夢がいつものように魔梨沙の様子を見にやってきてしまったのである。
 私は眠っていた靈夢を大急ぎで起こして奥の部屋に連れて行き、ここから出ないようにと言い含めて、霊夢の応対をしていた──。





「本物に比べてかわいいなあ。一匹ちょうだい」
「いや一匹しかいないから。それにどちらかというと一人って言ってあげましょうよ」

 お昼寝の時間ということで、眠っている魔梨沙のほっぺたをぷにぷにつつく霊夢。彼女があのとき魔梨沙を生かすことに賛成してくれたのは、単純にかわいいものが好きだからか……あるいは、なんだかんだで親友の姿をしたものを殺すのに抵抗があったからか、まあそのへんはよくわからない。


 ところで魔梨沙も靈夢も、精神的にはまだ子供だ。身体は大人、頭脳は子供。子供同士なので、よくじゃれたりする。大人な身体で子供みたいにスキンシップ激しいもんだから、ともすれば目を背けたくなるくらいイチャイチャしていて目に毒だ。もちろん当人達にしてみればそんな気は無いんだろうけど。
 そしてその一環なのかどうなのか、生まれが遅い靈夢は魔梨沙に懐いていて、お昼寝するときはいつも一緒だ。ふらふらーっと同じ布団に入って、靈夢は魔梨沙に抱きついて眠る。


 さて、今はお昼寝の時間であった。ついさっきまで、靈夢はいつものように魔梨沙に抱きついて眠っていた。そこに霊夢が来たので、私は大急ぎで靈夢を魔梨沙から引っぺがし、奥の部屋に放り込んだのだ。そして靈夢は自立人形であるので、もちろん私の指示なんて……まあ聞くには聞くけど、親が子供に言う程度の強制力しか持たないのである。

 というわけで、寝ぼけた靈夢は私の言ったことをきれいさっぱり忘れたらしく。
 魔梨沙を求めてここまでやって来たのだった。

 とてとてと私と霊夢の間を横切り、魔梨沙の布団に入って、「まりさー」と舌足らずな甘え声で、互いの頬を擦り付けあう靈夢。
 そんな事態を、ぽかんと口を開けて見ている霊夢。

 私はというと、久々に混乱していた。
 まずい。まずすぎる。
 このままでは、私が魔梨沙にあわせて霊夢の人形を作ってイチャイチャさせてると思われかねない……!!
 私の判断は素早かった。


「ド、ドッペルゲンガーよ!! 霊夢、逃げてええええええええええ!!!!」










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