霊夢への思いのたけを、ね……いざやろうとすると私にも覚悟がいるわ。
 まあちょっと恥ずかしいかもだけど、罰ゲームだし、そのくらいはね……。仕方ないわよね……うふふ。



 ……さて、霊夢。霊夢ね。かわいいの。超かわいの。かわいさで幻想郷が滅びるの。もうぎりぎりなのよ。いっつもぎりぎり。これ以上かわいくなったらやばいわね。本当にやばい。滅びるわ。幻想郷。

 いやもうほんとうにね、みんなの前では隠してるの。かわいいの隠してるの。だからなんだかちまたではクールな子ってイメージが広まってるみたいだけど、そんなことありません。休みなく覗いている私が保証します。ええ。
 ん、どんなふうにかわいいのって? そうね、たとえば……まずは神社に誰もいないときね。ひとりでぼーんやりお茶飲んでるか掃除してるかなんだけど、これがね、なんと、たまーに歌ってるの。いや、違うわね、あれは歌じゃないわ。歌だけど歌じゃないの。らんらんららんら〜ららんら〜ららら〜って、すごい適当に口ずさんでるのね。あれは鳴き声ね。霊夢の鳴き声。聞く時はちゃんと心を強く保っていかないとね……気を失うわ。ぱたんって。なにをかくそうわたくし、はじめて聞いたときは意識が飛びそうになりましたから。あ、いやいやいや、下手ってわけじゃないのよ。上手いっていうのとも違うんだけど……なんだか力が吸い取られるのよ。その歌を聞いてだけでもう幸せすぎてね、思わず幻想郷滅ぼしそうになっちゃったわ。めきょって。むしろちょっと境界ひしゃげたんだけどね、あ、これ内緒ね。いやそんなことはどうでもいいのよ、歌ってるときの霊夢がまたほんとにかわいいの……! 年相応のね、天真爛漫な笑みってやつよ。やっぱりね、異変解決のときとかはね、いちおう頑張ってキリッとするようにしてるのね。キリッて。それがわかるわよ歌ってるときの霊夢を見たら。ああもう、そのがんばりがまたいじらしくて……あああ、なんだかくねくねしちゃうわ。くねくねくねくね……くねくね……。

 でね、でね。まあ歌ってるのはすごくレアなんだけど……でもひとりでお茶飲んでるときもね、これがまた侮れない! 歌ってるのは真正面ド直球だけど、こっちは不意打ちよ。不意打ち。
 まあまあまあまあまあ、あわてないあわてない。そうね、最初はね、縁側に座ってぼーんやり暇そうにお茶飲んでたの。ぼけーっとして。あああ、うあっ、でも、ぼけーっとしてる霊、夢も、いい、あっ、かわいい……ぐううっ、今だけは覗きという使命を忘れて、後ろにひょんと隙間開いてそのままぎゅーって抱き締めたい……はっ!? あ、はあっ、はあっはあっ……夢? っと危ない、ついつい回想と現実の境界をいじってしまうところだったわ……いやむしろいじってしまっていいんじゃ……え、だめ? どうしても? わかりましたあとでこっそりやります。

 まあね、ひとりでね、ぼけーっとお茶飲んでるんです。それで特に異常無いように見えるじゃない? と思うじゃん? ところがそんなことはないのです! しばらーくは何も起こらなかったわよ。でもね、じーっと見てるとね、あるときね。あっついお茶飲んで、ほーっと息はいて、ぼんやり空眺めてると思ったらね。ぼそぼそ何か言ってるのね、霊夢。最初ちょっと聞こえなかったくらい小さい声なのよ。で、よーーーーく聞いてみたら、

 誰か来ないかなー。


 誰か来ないかなー。



 誰か、来ないかなぁふぅ。











 ……うーん、霊夢どこ、れい……むぅん? ……あ、失礼。どうもこれ言ってる霊夢を思い出すといっつも意識飛ばしちゃって……。
 いや、まあ仕方ないでしょう? 我々はつんでれいむのデレを目の当たりにしたのですよ。誰か来ないかなーって。一人でいるのはなんだかんだで寂しいと。神社に集まる妖怪やらなんやら、いつも邪険に扱っていて、その実、心の奥底では待っていると。この言葉を聞いて生きていられる妖怪がいるだろうか、いやいません! あああ霊夢、私があのとき気を失ったりしなければ、ここにいるぞぉっ!! って言ってぎゅーって抱き締めてあげたのに……霊夢、ふがいない私を許して……。


 はぁ……。


 ふぅ……。


 それでですね、その後実際に誰かが来て、なんとなくぞんざいに扱ってるようにみせてちゃんとお茶を入れてあげたり、こころなしか嬉しそうにしている霊夢を見ていると、もうなんだか泣けてきてしまって……皆さん、神社には行ってあげましょうね……迷惑がってるのはあくまでポーズですから……。

 霊夢はツンデレなんです。そう、つんでれいむ……はっ、つんでれいむ。つんでれいむ!
 つんでれいむといえば、あの地底の異変の時は危なかったわ……まったく覚妖怪め、遠隔攻撃で私を殺しにくるなんて。ふふふ、霊夢があんなことを思っているとは……いや、わかってましたよ。わかってましたけどね! ふふ、ふふふ、ふふふふふふふふふ。え、霊夢が何を考えていたかって?
 ふふふ、こんなやり取りがあったのですよ。

 当たり前じゃない。誰が妖怪の言う事なんて真に受けるのよ、とこれが霊夢。
 そして覚……しかし鬼の言う事は真に受けた。そして地上の妖怪の事を信用している。

 地上の妖怪の事を信用している。

 地上の妖怪の事を信用している!

 きたこれ、ってガッツポーズしちゃいました。グッジョブ。覚妖怪グッジョブ。
 ただ、ただ一つ、そのあとすぐに勝負に入っちゃったのはいただけないわね……地上の妖怪の事を信用している! って本音をばらされちゃったそのあと! そのあとの霊夢の反応をじっくり見たかったのに、すぐ勝負始めちゃったからそこのところ誤魔化されちゃってね。いえ、でもグッジョブです。素晴らしい仕事でした。しかもそのあと、覚妖怪が再現した、霊夢の心の中にあった弾幕というのも私のスペルで……もうわたくし、感極まって泣いてしまって……。

 そうそう、そういえばですね、どうも霊夢ったら、私の弾幕を真似ているところがあるみたいで……夢符「二重結界」とか大結界「博麗弾幕結界」とか……ええ、元々ね、私のなんです。明らかに私の境符「四重結界」や「弾幕結界」がオリジナルで。
 これがたとえばね、あの白黒魔法使いとかだったら何の有難みもないでしょう。あれはだってね、いろんな人のを節操なく真似しますからね。
 でも霊夢、霊夢がですよ。あんな、誰にも別に興味なんかないよーって感じにつーんとしてる子がですよ! 裏では私の弾幕を……それも他の人のには目もくれず、私の弾幕だけを真似しようと思って練習してるなんて……う、ひぐっ、う、ぐすっ、かわいい、まねっこれいむかわいい……あう、鼻水、霊夢がかわいすぎて鼻水が……。


 ちーん。


 ちーん。


 ……霊夢風邪ひかないかなぁ。あ、いえいえいえ、別に霊夢に苦しんでほしいとかそんなわけじゃないんですよ。こう、看病したいなあって。看病イベント。前に一度あったんですけど、それ以来なかなかチャンスがなくって。
 風邪ひいた霊夢はね、簡単な食事だけとって、あとは布団に潜ってるんですよ。それでなかなか眠れないの。寂しいのね。うん、霊夢は自分では認めないだろうけど寂しくて仕方ないのよ。静かだなあ、身体がだるいなあ、頭が痛いなあって……そしてそこに私、登場!
 ええ、そのときの霊夢はかつてないほどのツンモードでした。ああいう子は弱っているときほどツンツンするものです……だがそれがいい! むしろそれがいい! 精神的にツンツンしてはいても、肉体的には弱ってるから実力で排除もできませんしね……うふふ、付きっ切りで看病してあげました。付きっ切りで。おはようからおやすみまでなんてそんな生ぬるい。おはようから次のおはようまで、そしてまた次のおはようまで……一時たりとも離れません。ああ、でも料理するときだけは離れなくちゃいけなかった……ひどい話です。ひどい現実ひどい。だから私が行くんじゃなくて台所を持ってきて解決しました。台所が来い。
 霊夢が寂しがらないようにずっと手を握っててあげたのです。寒かったら人肌ならぬ妖怪肌であっためてあげました。ふふ、うふふ、抱き締められて最初はじたばたしてたけどだんだんおとなしくなってく霊夢……かわいい……かわいいわ。


 ……はぁ。


 ……はふぅあ。


 うん? 霊夢、そんなそわそわしてどうしたの? もしかしておトイレ? 違う? じゃあ何が……え、風邪ひいてからお風呂入ってないって? ああ、汗かいて気持ち悪くなっちゃったのね。よっし私にまかせなさい……え、違う? ……臭い? お風呂に入ってないから臭うって? は、う、あ、ぅん……霊夢、霊夢霊夢霊夢、そんなの気にしないで! すくなくとも私は気にならない……ううん、それは嘘だわ。霊夢の匂いならむしろばっちこい! 痛っ、あいたっ、霊夢叩かないで! ……でもね霊夢、汗かいて気持ち悪くなったんなら、身体拭いとくくらいはしとかなくちゃ。霊夢だってこうやって普通に風邪をひく人間なんだし、治すための努力はしないと。……え、やるって? 身体拭くのやるって? 私にやってって? ほんとにいいの? いや、やろうって言ったのは私だけど……ほんとにいいの? やったー!! 痛い! 叩かないでー!
 ごくり。霊夢の裸……いいえ大丈夫です。大丈夫です。大丈夫です。煩悩退散してるから。うふふ、霊夢の肌やわらかい……あ痛っ! ごめんなさい黙って拭きます……。
 え、妖怪も風邪ひくのかって? まあ肉体的じゃなくて精神的な風邪をひくことはあるけど、なんで? ……って、あっ、もしかして私に移らないか心配してる? 心配してくれてるのね? うあああああん、霊夢霊夢霊夢……っとそんなそっぽを向いても無駄よ! ぎゅーってしちゃう! 熱っ、熱い! お湯をぶっかけないで! うう、でもわたし負けない! 霊夢がっ! おとなしくなるまでっ! 抱き締めるのをっ! やめないっ!
 ……ふう、やっと観念したわね。え、なんだか頭がくらくらする? いけない、ちょっと騒ぎすぎたかしら。……霊夢、霊夢なにその「ふにゃーっ」って、新しい鳴き声……? う、ぐふうっ、落ち着け落ち着きなさい、収まれ、収まれ私の鼻血……私の愛……。
 しかしよく考えたらすごい格好ね私たち……霊夢は上半身裸で、私はお湯で身体がびしょびしょで、そんなんでくんずほぐれつしてるみたい……いっそ、風邪が移るようなことしちゃう? うふふ、冗談よ冗談……え? 霊夢、なに、よく聞こえなかったわ……え? いいって、そう言ったの? いいの? ふぇ、え、え?
 ちょっと、ちょっと待って霊夢、こういうのは勢い任せだけじゃだめなのよ……ちゃんと計画的に……そう、まず、子供! 子供はっ……子供は何人欲しい?
 私は三人欲しいな。女の子がふたり、男の子がひとりね。名前は霊夢が決めてあげて。私ってあんまりネーミングセンスないから。えへへ、どっちに似ると思う? 私と霊夢の子供だったら、きっと男の子でも女の子でも可愛いわよね。それで庭付きの白い家に住んで、大きな猫を飼うの。猫の名前くらいは私に決めさせてね。霊夢は犬派? 猫派? 私は断然猫派なんだけど、あ、でも、霊夢が犬の方が好きだっていうんなら、勿論犬を飼うことにしましょう。私、猫派は猫派だけれど動物ならなんでも好きだから。だけど一番好きなのは、勿論霊夢なのよ。霊夢が私のことを一番好きなように。…………


 はうあっ!?


 いけない、いつのまにか回想始めていつのまにか妄想へトリップしようとしていたわ。……どこからどこまでが回想でどこからが妄想かって? ……うふふ。うふふふふふふふ。
 それにしても、もう帰って来れなくなるところだったわ……子供ができたらその子を残して現実に帰ってくるなんてできないもんね……ああ、でも、あの霊夢を残して帰ってくるだけでも、胸が張り裂けそう……今ここに、私の目の前にいるのが本物の霊夢だってことはわかっているはずなのに。ああもう、霊夢、あなたは罪だわ、かわいすぎて罪……


 ──霊夢?


 霊夢、どうしたの? 機嫌悪くなっちゃった?


 霊夢?


 霊夢……?


























 昨日未明、博麗神社で巫女を務める博麗霊夢さんが、宴会会場である博麗神社にて悶死寸前の状態で発見された。
 霊夢さんは鳥居に身体を括り付けられている状態で発見された。関係者からの証言によると、霊夢さんは宴会での飲み比べに負けた罰ゲームとして、八雲紫さんから何かの話を延々と聞かされていたものと思われる。いったいどんな話を聞かされていたのかなど、宴会出席者から事情を聞いているが、皆一様に口を閉ざしているため、調査は難航している。
 間一髪命を取りとめた霊夢さんにも当時の状況について尋ねているが、顔を真っ赤にして黙りこくるのみである。かわいい。












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