「あたい、吸血鬼になりたい」
「ほう。それはまたどうして?」
「だってさ、吸血鬼ってすごいじゃん。持病とかたぶん無いじゃん」
「日光に当たれなかったり流水渡れなかったり、いろいろあるじゃあないか」
「でもさ、働いてる途中に腰をやっちまったりすることは無いでしょ。十分じゃない。それに日光とか流水とか、実際あんまたいしたことないよきっと」
「……本当にそうかな?」
「え?」
「まあ、ね。君の気持ちはわかる。君のご主人様なんかは日傘一つで外出するし、雨や川だって痛い痛いと喚く程度で渡っている。君にはそう見えるかもしれない。でも、見えるものがすべてとは限らないんじゃないかな? 主としての威厳。プライド。そして吸血鬼という自らの運命への反抗。様々なものを背負って、莫大な苦痛をさも大したこと無い物のように受け止めている……そんなふうに考えたことはないかい?」
「無いわ」
「ふむ……そうか」
「うん」
「それなら、吸血鬼になるのも意外と悪くないかもしれないね」
「そうね。がんばる」
「うむ、がんばって」




  ◆  ◆  ◆




「あ、咲夜さんおはよっす」
「あ……ああ……?」
「腰だいじょぶっすか? いちおう応急手当はしときましたけど」

 ふかふかのベッド。
 窓の無い薄暗い部屋。蝋燭の光。
 しょぼしょぼする目。聞こえる声。おはよっす。
 眠っていたらしい。

「夢を……見てたわ」
「あー、なんか寝言でもにょもにょ言ってましたね。誰かと話してたみたいでしたけど。淫魔でも来ました?」
「……ナマズ」

 ナマズの巨体の上にしゃがみこんで、遠く空を見つめている夢だった。見つめながらたそがれ、他に相手もいないのでナマズに語りかけたらなぜか説教される、そんな夢だった。
 夢の中。空の上では少女たちがキャッキャウフフしていて、自分もそれに混ざりたいのだけど、しゃがみこんだその体勢から立ち上がるのが怖くて、できなかった。
 なぜ怖かったのか。それは、腰がまたびきっとなってしまうのが怖かったから。
 そう。腰だ。


 メイド長。
 腰をやっちまったのである。


 廊下に落ちていた小さなゴミ。
 それを拾おうとして、しゃがみこんで。
 いつもどおりに腰を戻そうとしたその瞬間。

 がくっ。

 ……となった。何が起こったのかわからなかった。
 歩けなかった。と言うより立っていることすらできなかった。そのまま倒れこんだ。

「あが……ん」

 激痛。意識が遠くなるほどの激痛。むしろそのまま意識を手放して、そして気づくといまここである。
 ただまあ、紅美鈴。いまメイド長のベッドの隣で椅子に腰掛け、マンガ読みながらポテチをばりばりやっている女。
 なんだかよくわからないことがいろいろできるこの女の力か何かで、そのダメージは和らいでいるらしい。もう腰に痛みは感じなかった。

「んまー、咲夜さんやっちまいましたね。私のはあくまで応急処置なんで、いまは大丈夫だけどそのうち再発しますよそれ。すっごい痛いでしょうけどまあ耐えてください。あっはっは」
「あっはっはっはっはっは」

 ひとまず十六夜咲夜としては、腰の状態を見たい。ということでまず時間を止めた。ゆっくり立ち上がる。やはり痛みは無い。咲夜は満足して、礼を言うべく美鈴の元へと足を向ける。
 彼女が読んでいた漫画はとりあえずベッドの上に避難させてやる。彼女が食べていたポテチは袋の方を手にとって一気に自分の口の中に流し込みばりぼりばりぼり。と咀嚼しながら、それがコンソメ味であることに気づき、咲夜はにっこりと笑った。
 美鈴の身体を担ぎ上げ、自身の肩の上に仰向けに乗せてやる。右手は美鈴の首を、左手は太腿を掴む。
 そして時は動き出す。

「い……いま起こったことをありのままに話すぜ。『私は椅子に座ってマンガ読んでポテチ食ってると思ったら、咲夜さんにアルゼンチンバックブリーカーをかけられていた』」
「マンガ読んでポテチ食いながらね、耐えてくださいあっはっは言う美鈴にね、お礼でもしようかなって」
「それ礼は礼でもお礼参り」
「あとポテチはのりしおに決まってんだろダラズ」
「あっはっはのりしお派が強がってやんの痛い痛いちょっとすんませんごめんなさいやめて」

 そんなこんなで力いっぱい技かけてバキボキベキグキィッと嫌な音を聞きつつその辺に放り投げたわけだが、しかし三秒後、そこには元気にラジオ体操をする美鈴ちゃんの姿が!!

「いったいなー。咲夜さん手加減してくださいよー。マジたのんますよー。おいっちに、おいっちに」
「……はぁ」

 咲夜の内心はSHIT。嫉妬である。こいつときたら……いや妖怪の奴らときたら、ほぼ例外なく人間より丈夫な身体を持ってやがる。腰痛なんて縁があるわけない。妬ましい。妬ましいわ!
 その一方、これからおそらく一生単位でこの激痛と戦っていかねばならない自分。憂鬱にもなろうものだ。憂鬱なのだから手が滑ってアルゼンチンバックブリーカーくらいかけてしまうものだ。


 いや、しかし、ちょっと待て。
 本当にそうか? こうして咲夜ちゃんはその後も腰痛と付き合いつつ一生を終えましたどっとはらいでこの物語は終わるのか? 別ルートのフラグが立ってはいなかったか?

「あたい、吸血鬼になりたい」
「はぁん? 咲夜さん頭沸いたんですか?」

 そして再び咲夜の手は念入りに滑りつつ、にっくきコンソメ派を部屋から叩き出した。




  ◆  ◆  ◆




 薄着で、少し汗っぽくて、腋やらへそやら胸やら服の隙間からちらちらさせて、人差し指の先を軽く咥えて、ベッドの上におにゃのこ座りして、上目遣いで、甘えた声で。

「お嬢様、私のあなたの吸血鬼にしてぇん……」

 まいった。
 レミリアまいっちんぐ。

 従者が腰をやっちまったと言うんで見舞いに来てみたら、なんかちょっぴりオトナの雰囲気で迫ってきやがった。腰と言うより頭をやっちまったのかもしれない。それに、吸血鬼という種族である自分に対して「あなたの吸血鬼にしてぇん……」とは何だろう。「あなたの人間にしてぇん……」と言われた人間はいったいどんなリアクションを返すのか。日本語でおk。
 困惑するレミリアに、咲夜はキリッと真面目な顔を見せた。

「つまり、あなたの吸血鬼にしてほしいんです」
「なるほど、わからん」
「どうして……どうしてわかってくれないのーーーー!?」

 レミリア・スカーレットは思わず「ぐうっ」と唸った。
 『どうしてわかってくれないのーーーー!?』これはかつて日曜朝という子供向けな時間に放送されておきながら、主人公である子供たちの両親が離婚していたり実の親ではなかったり母親と不仲だったり等々、ファンタジックな世界観とは裏腹に現代社会に即した様々な問題を織り込んだ名作子供向け(?)アニメ『デジモンアドベンチャー』において主人公キャラの一人が母親に対して投げかけた言葉であり、またこの言葉を自らのパートナーであるデジタルモンスターにそのまま投げ返されるという伏線回収を経て実は母が自分のことを愛していたのだと知る名シーンを構成する重要な台詞なのであるがよく考えるとこの場には特に関係なかった。
 ちなみにこのアニメ、敵役の中でもボス的位置にある吸血鬼モンスターが妙に強いのを気に入ってお嬢様も機嫌よくご覧になっているが、敵役は敵役なのでもちろんわりと無残な末路をたどる。お嬢様が「あ、あ、ああ……」と悲しみに沈むまであと三話。

 と、そんなこんなのうちに咲夜はなんとか自身の意図をレミリアに伝えたようだ。

「はぁ、吸血鬼……吸血鬼ねぇ。まあいいけど」
「やった! 私は人間をやめるぞ腰痛!!」
「なにそれ新しい語尾?」
「いえ、腰痛に呼びかけてるんです腰痛」

 日本人の擬人化スキルはついに腰痛を擬人化するまでに至ったようだ。
 まったく侮れない奴らよ──思いつつ、レミリアは自身の唇を舐めた。

「んじゃー咲夜、首出して」
「はい」
「はむ」
「あぁん」
「ほんひゃ、ひふほー」
「ごくり」
「あ、そういえば」

 はむん、とお口をおっきく開けて咲夜の首筋にくっつけて吸い付いてぺろぺろしていたお嬢様だが、きゅぽん、と唇を放した。
 咲夜を見上げる。
 火照った顔の、潤んだ瞳の咲夜。目を合わせる。

「いちおう訊いとくけど、咲夜って清らかな乙女よね? じゃないとまともな吸血鬼になれないからね。まあ咲夜だし、だいじょ……」

 咲夜の目が泳いだ。
 ふわっふわっふわっと泳いだ。バタフライである。
 首筋に汗がダラッダラ流れ始めた。咲夜の汗、咲夜水の滝。

「ま……まちゃか」

 ガクガクガクガク震え始める。お嬢様が赤ちゃん言葉になるのも致し方ないくらいの挙動不審っぷり。むしろお嬢様もガタガタ震え始めた。二人が共振し、その震えっぷりたるや震度にしておよそ四。また奴の悪戯かと誤解された比那名居天子という不幸な天人が博麗の巫女にけちょんけちょんにされる前にこのSSは強制終了してしまうのだがそんなこたぁどうでもいい。重要なのは咲夜たんの非処女問題である。彼女もまたユニコーンに会えないのか? 恐怖に歯をカタカタならす処女厨レミリアに、少女は重々しく口を開いた。
 それを。すべてを聞いた、レミリア。

「あ、あ……うああああああああああああ……!!」

 頭を抱えて、くずおれた。
 そんな、まさか、まさか──

 咲夜が魔理沙の家に遊びに行ったり、
 二人で一緒にお茶したり、
 魔理沙も紅魔館に遊びに来たり、
 咲夜の手作りのお菓子を食べたり、
 あまつさえ宴会で一緒に酒を飲んだりしているなんて──

「オ、オ、オオオ……」
「申し訳ございませんお嬢様! 申し訳ございません……!!」

 血の涙を流しながら、それでも悲しみに歪んだ顔を見せないようにと、レミリアは震える両手で顔を覆った。
 咲夜は──慟哭する主に、咲夜は、しかし何もできない。力強く抱きしめる? 馬鹿な。こんな汚れてしまった自分が、幼く純粋たるスカーレットマイスタに触れて良いはずが無い!

「……咲夜。あなたは吸血鬼にはなれない。少なくとも、私にはできない」

 主の宣告。
 咲夜はただ受け入れることしかできなかった。




  ◆  ◆  ◆




 十六夜咲夜は、ハイライトの消えた目で館の中を徘徊していた。
 もはやメイドの統制を取る気力も無く。妖精たちは好き勝手に遊んでいるが、注意する気も起きない。
 吸血鬼にはなれない。もはや咲夜は、この後も腰痛ちゃんと付き合いつつ一生を終えるしかないのだ……。

「お嬢様の真似〜。……げえっ太陽! まぶしい溶ける……!」
「じゃあ私は……げえっ雨! それも酸性雨! お肌に悪い!」
「えっと、じゃあね、私は……うわぁっ! 鏡に映らない! びっくり!」
「えー、鏡に対して斜めに立ってるだけじゃん。こっちから見たら映ってるもんね」
「ぐ……ばれたか」

 そりゃそうだ。気だるい頭で咲夜は思う。
 吸血鬼は太陽の光で灰になる。吸血鬼は流水を渡れない。吸血鬼は鏡に映らない……。

「……ん?」

 なにか。
 なにか、閃きかけた。

 吸血鬼になったら、太陽の光で灰になるし、流水を渡れないし、鏡に映らなくなる。
 では逆に、太陽の光で灰になり、流水を渡れず、鏡に映らないようになれば、それは吸血鬼と言えるのでは?

「まあ、そこまで簡単でもないけどね」
「うわっびっくりした。……パチュリー様、なんでこんなとこに? ここ、図書館から百メートルくらい離れてますよ? 溶けちゃいますよ?」
「溶けねーよ」

 パチュリーの辞書ビンタ。……をバックステップで避け、咲夜は頬を膨らませる。

「それよりー、なんでこれがだめなんですか。名案だと思ったのに」
「どちらかというとトンデモ案じゃない? ……まあたしかに、吸血鬼の特徴をすべて網羅した生き物がいれば、それは吸血鬼と変わりないでしょうね。でも現実的に無理でしょ?」
「何を言いますか、やってみなくちゃわかりませんよ」
「……やるって言うならまあ、止めはしないけど」

 パチュリーが言う前から、咲夜は「うーん」と考える体制に入っている。
 そして数秒後。

「よし、まずは鏡に映らないところからね」
「え、そこから? もうちょっと現実的なところから地道にやれば?」
「いえいえ、じゅうぶん現実的かつ地道なチョイスですわ。日光で灰になったり、コウモリに分裂したり、血を吸った相手を吸血鬼にしちゃうよりは簡単です。また……流水は渡らないようにすればいいし、招かれてない家には行かなければいいし。白木の杭を心臓に打ち込まれたら、頑張って死ねばいいですし」

 吸血鬼は流水を渡らないんじゃなく渡れないんだけどねぇと思いながらも、とりあえず好きにさせたほうが面白いものが見られそうなので、パチュリーとしては放置の方向である。まったく紅魔館の面々はバイタリティに富んでいて素晴らしい。

「で、どうやって鏡に映らないようにするの? 何か策でも考えてるの?」
「当たり前じゃないですかパチュリー様。まずですね……鏡に映るというのはつまり、光の反射なわけです。私に当たって反射した光がさらに鏡に反射する……これが『鏡に映る』という現象なのです」
「うん」
「つまり、光と同じ速さで動けばなんとかなります」
「うん?」
「おや、理解できませんか?」
「ええ……私には少々難しいようだわ」
「まったく、パチュリー様ともあろうものがだらしないですね」
「ごめんなさい」

 清々しいほどに上から目線で説明し、同時に準備運動を始める咲夜。
 ガチでやる気らしい。光の速さで動いたところで鏡からは逃げられないんじゃないかなと思いながら、しかしパチュリーがその考えを伝えるのはしばらく時間が経ってからだ。

「『鏡の前にいるのに鏡に映らない』を実現するため……鏡の前で光速反復横跳びをします」
「うん。よくわからないけどがんばって」
「それでは。十六夜咲夜、行きます──!!」

 腰痛と永久におさらばするため。
 メイド長の挑戦が、今、始まる。




  ◆  ◆  ◆




 博麗霊夢が紅魔館を訪れたのは、先の地震の件──まあたぶんあのバカ天人だろうと見当をつけつつも、どうやら紅魔館が震源地のようだと紫に言われたため、念のためにやってきた次第である。
 「ざぐやが、ざぐやがぁ……汚れぢゃっだよぉ……」と何やら埒が明かないレミリアの首根っこを掴みつつ、ひとまず話ができるであろうメイド長を探していた霊夢であったが。

「……あれ何やってるの?」

 彼女が発見したメイド長は、鏡の前で尋常じゃない速度の反復横跳びをしていた。
 ダンダンダンダンダンダンダンッと、その足が床を叩く音がひっきりなしに聞こえている。

「世界に挑戦しているのよ」

 傍らでその様子を見つめるパチュリー・ノーレッジ、マジ顔でクスリと笑う。
 霊夢的には何か異世界に迷い込んだようなおぞましさを感じるのだが、まあ紅魔館なんてのはだいたいいつもこんなもんかもしれない。

「彼女は、鏡の前で光速で舞うことを目指している。それを成したとき、彼女は……」

 彼女は……どうなるのだろう。少し気になったが、パチュリーは続きを口にしなかった。

「ざぐや……ざぐやぁ!! がんばれ!! がんばれえっ!!」

 なんか応援し始めるレミリア。
 しかし霊夢はクールであった。クールに状況を判断した。
 結果。こいつらヤバい。何か変な薬でもやってるんじゃないか。

「あー……私、帰るわ」
「そう? もっと見ていってもいいのに」
「うん……今回は遠慮しとくわ」
「残念ね。……あれ? そういえば霊夢、なんでここにいるの? 何か用事かしら?」
「あーいや、気にしないで。些細なことだから」

 唯一まともな言葉が帰ってきたパチュリーに別れを告げつつ、霊夢はそそくさとその場を後にする。
 と言うのも、いつのまにか紅美鈴が、フランドール・スカーレットが、小悪魔が、数多の妖精メイドたちが、要するに紅魔館に住む者たちが周囲に集まり、「さ・く・や! さ・く・や!!」のコールをしているのだった。

 ダンダンダンダンダンダンダダダダダンダンダダダダンダンダンダダッダダダダダッ!
 咲夜のステップ音から、切れ目がなくなっていく。

 仲間たちの応援は無限のエネルギーになる。
 咲夜は加速する。
 限界の壁を越えるために。
 吸血鬼になるために。
 速く、速く、もっと速く────


 がっ、くん。


「あが……ん」


 しかし、そのとき。

 来た。

 来やがった。

 絶望的な腰の痛み────

「あ……れ?」

 いや──それほどでもない?
 少し鈍い痛みがあるが、まだまだ跳べる。
 どうして? 腰痛とはこの程度だったのか?


 だが、そうでないことはすぐに知れた。
 紅美鈴。背後にいる彼女が、自分に向けてかめはめ波のポーズを向けているのを、咲夜は鏡越しに知った。
 一瞬、目と目が合う。咲夜さんが人間やめてくれないと、アルゼンチンバックブリーカーの仕返しができませんからね──そう言っている気がした。

 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ─────────────────
 ステップ音が一繋がりになる。

 跳べる。
 まだまだ跳べる。
 みんなの力があれば。
 みんなの力っつっても、応援だけだけど。
 それでいいのだ。
 誰よりも必死に応援してくれているお嬢様。
 期待を裏切ってごめんなさい。でも、私は、私自身の力で、吸血鬼になります。

 ダダダダダ──────────────ィィィィィィィィィィッ──
 音が、別の成分を帯び始める。

 加速。
 さらに加速。
 顔をぐしゃぐしゃにしているレミリアの、その姿すら、だんだんと霞み始める。


 ────────────────────────────────────────
 そしてついに、咲夜の耳には何も届かなくなった。


 咲夜は。


 咲夜は、今、限界を────




  ◆  ◆  ◆




 霊夢が神社に帰ってくると、紫の奴がまったりくつろいでいやがった。
 隠しておいたはずの茶葉とお菓子も引っ張り出されてしまったらしい。霊夢は一つ舌打ちをしたが、紫がお土産を持ってきているのに気づくと、途端に機嫌を直した。彼女もまた、基本的にはわかりやすい少女なのである。

「霊夢、どうだった? 紅魔館は」
「うーん……なんか変な宗教始めてた」
「たぶん。正直よくわかんないけど」

 紫は「ふぅん……」と頷きつつ、お土産の包みに手をかける。包み紙を一箇所たりとも破くことなく、その細い指で優雅に剥ききり、先ほどからお待ちかねといった様子の霊夢に差し出す。餡子がたっぷりつまった饅頭。「えへへ……」と笑みをこぼしながら、霊夢は遠慮なく手に取る。博麗神社の、結界の守り手たちの、のどかなひとときであった。

「んぐんぐ……あ、そうだ、紫」
「霊夢、口の中に物を入れながら話すのはお行儀が悪いわよ……まったく」
「んぐっ。ちょっと気になったんだけどさ。光の速さで反復横飛びするとどうなるの?」
「なにそれ。霊夢、やるの?」
「いや私じゃないし……それにそんなことできないし」
「変な子ねぇ。そうねぇ、霊夢が光の速さで反復横飛びしたら……」
「んぐんぐ。私じゃないってのに……」

 既に二つ目に手を伸ばす霊夢。
 ふむぅと頷きながら、紫は口を開いた。

「リアルな話すると、
 多分霊夢の住んでる幻想郷が消し飛ぶ。
 光速で霊夢ほどの質量(約三〇〜四〇キログラム)の
 物体が動いたら想像を絶する衝撃波が発生する。
 ましてそれが地表と激突したら地球がヤバイ。
 霊夢の反復横跳びで地球がヤバイ」
 
 
 










                               ヽ`
                              ´
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                           __,,:::========:::,,__
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